借家人賠償責任保険とは?賃貸契約のトラブルから身を守る基礎知識

目次

借家人賠償責任保険とは?賃貸契約で重要な保険の基礎知識

賃貸住宅に住む際、火災保険への加入が求められることはよくあります。
しかし、その中には「借家人賠償責任保険」という重要な特約が含まれていることをご存知でしょうか?
借家人賠償責任保険は、賃貸物件に住んでいる人にとって、万が一のトラブルに備えるための重要な保険です。

本記事では、借家人賠償責任保険の仕組みや必要性、他の保険との違いなどを解説します。

お問い合わせはコチラ

借家人賠償責任保険とは

借家人賠償責任保険とは?

借家人賠償責任保険は、借りている部屋に対して損害を与えた際に、大家さんに対する賠償責任を補償する保険です。例えば、火災水漏れなど、住人が原因で発生した事故で物件が損傷した場合、その修理費用を賠償する責任が生じます。その際に、借家人賠償責任保険によって賠償金が支払われます。

多くの賃貸借契約では、入居時に不動産屋さんで火災保険に加入することが求められますが、その中に借家人賠償責任保険が含まれていることが一般的です。火災保険は通常、火事や自然災害による損害をカバーしますが、大家さんに対する賠償責任もセットで補償されるのです。

借り主の一般的な保険加入例

家財 300万円
借家人賠償責任保険 2,000万円
修理費用 300万円
個人賠償責任保険 1億円

借家人賠償責任保険が適用される具体例

保険金が支払われるケース

借家人賠償責任保険が適用される具体例としては、次のようなケースがあります。

  • 火の不始末による火災

    借主が寝タバコをしていたところ、寝具に火が燃え移り、火災が発生。
  • キッチンでの調理中の火災

    調理中に油に火がつき、キッチンが一部焼損。
  • 浴槽からの水漏れ

    入浴中に水を入れすぎて溢れ、階下の部屋に水漏れが発生。
    階下の住人の部屋は個人賠償責任保険で自室の修繕費用は借家人賠償責任保険から支払われた。
  • エアコンの不注意による水漏れ

    エアコンのドレンホースの掃除を怠ったため、水が漏れて床が傷んだ。
  • 家具の移動で壁紙を破損

    重い家具を移動中に壁にぶつけて、壁紙が剥がれてしまった。
  • 子供が壁に穴を開けた

    子供が遊んでいる最中に壁に穴を開けてしまい、大家から修繕費を請求された。
  • フローリングに飲み物をこぼしてシミができた

    飲み物をこぼしてフローリングに深いシミが残り、修繕が必要になった。
  • 誤って窓ガラスを割った

    室内で遊んでいたときに、物をぶつけて窓ガラスを割ってしまった。

このように、偶然の事故によって物件が損害を被った場合、借家人賠償責任保険が補償されます。

借家人賠償責任保険の保険料と注意点

保険料の相場

借家人賠償責任保険は、火災保険とセットで加入することが多く、年間の保険料は1万円前後が一般的です。
保険料は、物件の構造や築年数、契約内容によって異なることがあります。

また、保険金額の上限は物件によって異なりますが、一般的には2,000万円~3,000万円程度の補償が設定されることが多いです。万が一の大規模な火災や事故にも備えられるよう、補償額が高いプランを選ぶことが推奨されます。

契約時の注意点

火災保険や借家人賠償責任保険に加入する際には、保険会社契約内容をしっかりと確認しましょう。
特に、賃貸契約時に管理会社や不動産屋さんから勧められる火災保険に自動的に加入するケースが多いですが、必ずしもその保険が最適とは限りません。

保険料の相場や補償内容を比較し、適切なプランを選択することが重要です。
また、入居後も契約内容に変更がないか確認し、必要に応じて補償範囲を見直すことも大切です。

おひとり おひとりのお悩みに
\ 最適な保険をご提案します /

借家人賠償責任保険が必要な理由

賃貸借契約の原状回復義務

賃貸借契約書には通常、物件を退去する際に「原状回復義務」というルールが含まれています

賃貸借契約書

賃貸借契約書の抜粋 国土交通省 賃貸住宅標準契約書

原状回復義務とは、借りた物件を元の状態に戻す義務を意味します。

ただし通常の使用に伴い生じた損耗や経年劣化は原状回復義務の対象外となります。

原状回復義務の対象外となる例

・家具を設置したことによる床やカーペットのへこみ跡
・畳の変色やフローリングの日焼けによる色落ち(太陽光や建物の構造上の欠陥による雨漏りなどが原因の場合)

通常の使用による経年劣化や自然な消耗はこの義務には含まれませんが、借主の故意または過失によって発生した損傷や変更については、借主が修繕し、物件を元の状態に戻す責任を負います。

この義務を守らなかった場合、貸主は民法第415条に基づき「債務不履行」として借主に対して損害賠償を請求することができます

例えば、火災や水漏れによって部屋が損傷した場合、大家さんに対してその修理費用を負担しなければなりません

また、火事が発生した場合などの修繕費用は非常に高額になる場合が多く、賠償額が数百万~1,000万円を超えるケースもあります。そのため、借家人賠償責任保険への加入は、入居者にとって必要不可欠な補償となります。

借家人賠償責任保険と他の保険の違い

借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険との違い

借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険は、どちらも損害賠償に関する保険ですが、その補償範囲や適用される場面が異なります。

漏水事故で階下に損害を与えた場合を例に挙げ、これらの保険の違いを説明します。

事例 漏水事故で階下に損害を与えた場合

賃貸マンションに住んでいる借主が、洗濯機のホースが外れていることに気が付かず、水が階下の部屋に漏れてしまった。

損害
・自室の床への損害
・階下の住人の天井や床への損害
・階下の住人の家財

この場合、貸主と階下の住人の双方に対して賠償責任が発生します。

借家人賠償責任保険

借家人賠償責任保険は、貸主に対する損害を補償するための保険です。
借主が賃貸物件に損害を与えた場合、貸主がその修繕を行うために負う費用を補償します。

漏水によって自室の床など建物の一部が損傷した場合、それらの修繕費用は借家人賠償責任保険で補償されます。

個人賠償責任保険
個人賠償責任保険は、第三者に対して損害を与えた場合に適用される保険です。日常生活における過失で他人の身体や財産に損害を与えた場合に、その賠償金をカバーします。

漏水によって階下の住人が所有する天井や床などの建物、家具や家電などに損害が発生した場合、その賠償金は個人賠償責任保険で補償されます。

また個人賠償責任保険は、他人の財産や身体に損害を与えた場合に広く適用される保険です。
交通事故や日常生活の過失によって他人に損害を与えた場合などに対応します。

賃貸物件でのトラブルにおいては、階下の住人に水漏れで損害を与えた場合、賃貸物件に対する損害は借家人賠償責任保険で、階下の住人に対する損害は個人賠償責任保険で補償されます。

原則として、他の戸室は借家人賠償責任保険の補償の対象外となりますが、修理する戸室と構造的に一体となっている部分(例:隣の部屋の壁や廊下など)を取り壊す必要がある場合は、対象に含めます。なお、接続共用部分の損傷については、個別に判断します。

借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険の両方に加入していれば、どちらの損害も補償の対象となります。

事故によって使用する賠償責任保険の一覧表

スクロールできます
事故種別火災火災以外の偶然な事故
被害対象物貸主所有建物
(借用戸室)
左記以外の
戸室・戸室内動産

上記以外の第三者の
建物・動産
貸主所有建物
(借用戸室)
左記以外の
戸室・戸室内動産

上記以外の第三者の
建物・動産
債務不履行責任あり
借家人賠償責任保険
なし
契約がないため
あり
借家人賠償責任保険
なし
契約がないため
不法行為責任
(過失)
なし
失火責任法による
なし
失火責任法による
あり
借家人賠償責任保険
あり
個人賠償責任保険
不法行為責任
(重過失)
あり
借家人賠償責任保険
あり
個人賠償責任保険
あり
借家人賠償責任保険
あり
個人賠償責任保険
不法行為責任
(故意)
あり
保険は免責
あり
保険は免責
あり
保険は免責
あり
保険は免責

修理費用補償との違い

もう一つ、賃貸住宅でよく混同されるのが、修理費用補償です。
修理費用補償は、賃貸物件に対して自分が賠償責任を負わなくても、賃貸契約上の義務として修理しなければならない場合に適用されます。

例えば、空き巣被害によってドアや窓が壊された場合や、飛び石によって窓ガラスが割れた場合など、入居者に責任がない場合でも修繕費が発生することがあります。

このような場合に、借家人賠償責任保険では賠償責任がないため補償対象となりませんが、修理費用補償にて補償することができます。

借家人賠償責任補償
修理費用補償
  • 家主に対して借主が法律上の損害賠償責任を負った場合に補償
  • 家主との賃貸借契約に基づいて借主が負担した修理費用を補償
  • 居住のために緊急的に修理した場合に負担した修理費用を補償

おひとり おひとりのお悩みに
\ 最適な保険をご提案します /

借家人賠償責任保険 よくある質問

借家人賠償責任保険はどんな損害を補償する保険ですか。

借家人の過失によって賃貸物件が焼失または損傷した場合に、その借用部分の原状回復義務を補償するものです。適用されるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 賃貸契約に原状回復義務が明記されていること
  2. 物件の損壊が借家人の過失によるものであること
  3. 借用部分に損壊(滅失、汚損、または損傷)が発生したこと
  4. 契約に基づき、貸主から賠償請求があったこと

賃貸物件が火災で焼失した場合、責任はどのように扱われるのでしょうか?

1.隣家からの類焼によって賃借している家が焼けた場合

隣家が火元となって賃借物件が焼けたとしても、必ずしもその隣家に損害賠償を請求できるわけではありません。
これは、「失火の責任に関する法律」により、故意や重過失がない限り、延焼による損害について火元の隣家は賠償責任を負わないとされているためです。

2.家主が失火し、賃借物件や隣家が焼けた場合

この場合も、家主は「失火責任法」によって賠償責任を負わない場合があります。
そのため、借家人や隣家は家主に対して必ずしも損害賠償を請求できるわけではありません。

ただし、家主には賃貸借契約の履行責任があり、代わりの物件を提供する義務があります。
もし代替物件を提供できない場合には、家主は借家人に対して損害賠償責任が生じます。

3.借家人が失火し、借りている家や隣家が焼けた場合

借家人が火元となり、隣家や同じ建物内の他の住人に損害が生じた場合でも、「失火責任法」によって借家人は隣家などに対する賠償責任を負わない場合があります。

しかし、家主に対しては賃貸借契約上の義務を果たせなかったため、債務不履行による賠償責任が発生します。

借家人には、賃借物件を契約時の状態に戻して返却する義務があるため、失火によってこの義務を果たせなくなった場合、その責任を負わなければなりません。

家主が火災保険を充分に付保していれば、賃借人は借家賠の補償を付保する必要はないのですか?

家主が火災保険に加入している場合、家主は火災保険金を請求する権利と、賃借人が原因で発生した火災に対して損害賠償を請求する権利の両方を持っています。

通常、家主は火災保険金の請求を行いますが、これらの権利は全く別のものであり、どちらを行使するかは家主の判断によります。そのため、賃借人に対して直接損害賠償請求がくる可能性もあります。

また、火災保険は物に対する保険であり、補償範囲は物的損害や一部の費用損害に限られます。

しかし、賃借人が負う賠償義務には、物的損害だけでなく、家賃の喪失などが含まれる場合があります。
このような損害は、賠償責任保険でしか補償されないため、家主が火災保険に加入していても、賃借人には借家人賠償責任保険が必要となります。

書面で賃貸借契約を結んでいない場合でも、借家人賠償責任保険の対象となるのでしょうか?

口頭で賃貸借契約が成立しており、その契約で原状回復義務が課されている場合は、賃借人が法律上の損害賠償責任を負うことで発生した損害が、借家人賠償責任保険の補償対象となります。

賃貸借契約は諾成契約(書面がなくても成立する契約)であるため、書面がなくても口頭で賃貸の約束をしていれば、契約が成立する可能性があります。

しかし、口頭での契約では、原状回復義務などの契約内容を証明することが難しく、賃借人に法律上の損害賠償責任が発生しない場合もあります。

個人賠償責任保険に加入している場合、賃借している家の壁を壊したときに補償の対象となるのでしょうか?

対象にはなりません。

賃借している家は、被保険者が使用・管理している財産に該当し、個人賠償責任保険では補償の対象外となります。このような場合は、借家人賠償責任保険で補償されます。

「個人賠償責任特約」を契約している場合でも、「借家人賠償責任補償」は必要ないのでしょうか?

「個人賠償責任特約」と「借家人賠償責任補償」では、補償内容が異なります。

借主が自分の過失で火災などを起こし、家主に対して損害賠償責任を負った場合、「個人賠償責任特約」では保険金が支払われません。

そのようなケースでは、「借家人賠償責任補償」によって保険金が支払われます。
これら2つの補償範囲は重複しないため、両方の補償が必要です。

ペットが爪とぎしたりした傷は、借家人賠償責任保険で補償できますか。

ペットが原因の損害は補償対象外ではありませんが、すり傷や引っかき傷などの外観上の損傷や汚れで、借りている部屋の機能が損なわれたり低下したりしないものについては、免責とされます。

そのため、ペットが爪で引っかいたり噛みついたりしてできた軽い傷は、支払対象にはなりません。

まとめ

借家人賠償責任保険は、賃貸住宅に住む人にとって欠かせない保険です。
偶発的な事故によって物件に損害を与えてしまった場合、大家さんへの損害賠償を補償する役割を果たします。

賃貸契約時には火災保険とセットで加入することが一般的ですが、補償内容をしっかり確認し、必要に応じて見直すことが大切です。

賃貸物件に住む方は、今回紹介した保険や特約についての知識を基に、万が一のリスクに備えて適切な保険に加入しましょう。

目次